魚偏探偵

庵治 【香川県】

取材・文:森下真一

映画「世界の中心で愛を叫ぶ」の舞台になった庵治には... 映画「世界の中心で愛を叫ぶ」の舞台になった庵治にはいまもファンがたくさん訪れる。漁港を見下ろす皇子神社の境内のブランコにそんな若いカップル。気分はサクと亜紀?

多くの漁港と同様、マハゼはハゼ類の代表格とみなされる。これに似た格好の魚はとりあえずハゼだ。直前の語に影響されて「バゼ」になることが多い。真っ黒なドロメがドンバゼ、釣り上げられると果敢にも指に噛みついてくるイトヒキハゼをカミツキバゼなどは本来ハゼ科の魚だが、アナハゼもチンポハゼ(由来はお察しの通り)、クラカケトラギスもトラバゼでマトウトラギスはハゼゴである。ちなみに、せいぜい10cm程度のハゼゴは、いい出汁が出るのだそう。焼いて干す。雑煮や素麺の出汁を取るのにこれを使うのだという。釣りバリに掛かることは少ない魚だが、底曳きにはまとまって入るのだろうか。

ハゼがバゼならフグはブク。ヒガンフグをモブク、シロサバフグをギンブク、シマフグをサバブク、トラフグの小がゴスン(五寸)ブクで、大はオオブクといった具合。4月から5月にかけて、イカナゴの巻き網漁に10kgもあるオオブクが掛かることがあるそうだ。

庵治の人はフグを平気で食べる。特にクサフグが好きだ。ヒガンフグと同じくモブクと呼ぶこいつは初夏、近辺の砂浜に大群で押し寄せる。「その上を踏んで歩けるほど」無数のフグが浅瀬に突っかけ、産卵、放精する。あたりが真っ白に濁る満月の夜、渚ではタモを手に大勢が待ち受ける。バサッとすくってバケツに入れて持ち帰る。白子が飛び切りうまいという。

へえー。毒は大丈夫なんですかと目を丸くすると、再び漁師衆が盛り上がる。なーに、当たるもんかという人もいれば、いやいや何人かやられとるぞという人もいる。やはりオレは危うきには近づかないでおくべし。

    ★☆★☆★

ボラにメナダはいまはほとんど見向きもされないが、かつては商売になる魚だった。ボラはマボラでメナダはドウナイまたはヒグチ。寒のマボラは1本800円、土用のドウナイは同じく600円もした。似たもの同士で旬の時期が正反対。通年ターゲットになったわけだ。

続いて、昔もいまも喜ばれるのがウミタナゴ。これは単にタナゴと呼ぶのが普通だが、市場の伝票にはどういうわけか大中(ダイチュウ)と書かれるのだそう。これまで訪ねた多くの漁港では身が水っぽく柔らかいことと、卵胎生で、仔魚をいわゆる逆子の状態で産むことから嫌われるケースが多かった。「妊婦に食わすな」などというところもあったが、ここ庵治では高値が付く。お盆過ぎから9月にかけての大タナゴはキロ2500円もすると聞いて驚いた。

瀬戸内の小物たちに話題は尽きず、すべてを紹介するにはとてもスペースが足りない。市場には出ないが地元漁師がこぞってその味を絶賛するウシノシタ(シマウシノシタ)に刺身にもなるカタニギリ(ギンポ)。天然物より養殖魚の方が上等のナガハギ(ウマヅラハギ)に身離れがよく庵治に生まれた赤ちゃんの離乳食にはこれと決まっているメダカ(メイタガレイ)ほか、きっとまたの機会に。
(2007年2月7日取材)

地元名⇔標準和名

ウキソ メバル
アブラ アイナメ
モブク クサフグ
カナクリ ハオコゼ
ギギ ゴンズイ
レンゲスゲ クジメ
チヌ クロダイ
アカンコ カサゴ
シロバゼ マハゼ
チンポハゼ アナハゼ
ギンブク シロサバフグ
サバブク シマフグ
ゴスンブク トラフグ(若魚)
マボラ ボラ
ドウナイ メナダ
ウシノシタ シマウシノシタ
カタニギリ ギンポ
ナガハギ ウマヅラハギ
メダカ メイタガレイ

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