魚偏探偵

里波見 【京都府】

取材・文:森下真一

今川初衛さん 証言者 今川初衛さん昭和23年里波見生まれ。おじいさんは定置の網元だった。自身は学校卒業後10年間酪農と漁業を兼業、定置網漁をしつつ和牛を飼育していた。その後海の生活に絞り、昭和59年からは遊漁船業をはじめた。

赤と黒とじゃ大違い 結納にはホオボオ持参 スター釣魚も形無し!?

赤には魔除けの意味があるとされるのだそうだ。神社の鳥居は赤い。お地蔵さんのよだれかけが赤い。だるまも赤い。古くからのそういう伝統に従って、それらよりもずっとアグレッシブな現代の魔除けもきっちり赤に統一されている。ウルトラの兄弟を見るといい。この世のものとは思えぬ邪悪な怪人たちから地球を守る戦隊ヒーローのリーダーも決まってレッドだ。それでは緑のバッタ色の仮面ライダーはどうなのかとの議論もあろうが、あれはもともと悪の秘密結社ショッカーの戦闘兵器となるべく造られた改造人間だったのだから話が別なのだ。

秋の丹後は一年でいちばん気持ちいい季節。里波見の海... 秋の丹後は一年でいちばん気持ちいい季節。里波見の海岸から少し登ったところには府立の自然公園があった。豊かな自然に恵まれた里なのだ

赤はいい。赤はめでたい。ハレの日には紅白の幕を張り、紅白の餅を配る。日の丸だって白地に赤である。そういうわがニッポンの民俗学的風土に根ざして、魚も赤いと喜ばれる。このごろはどこの港でも値くずれが激しいと嘆き節が聞かれるマダイだが、それでもやっぱり魚の王。腐っても鯛。慶事には欠かせない。里波見(さとはみ)ではこれをアカダイと呼んで大事にした。

「そやけど自分らが使ういうことはなかったですな」昔は高級な魚でしたから、と今川初衛さんはいう。
 
   ☆★☆★☆

京都府宮津市。丹後半島東岸の中間付近に位置する里波見で祝い事に使われたのはホオボオだった。これもやはり鮮やかに赤い魚だ。標準和名ホウボウは鰾(うきぶくろ)を振動させて鳴く。その音が名の由来になったとされるが、ここではホオ、ボオと聞こえたらしい。

海と星の見える丘公園から穏やかな宮津湾を望む。里波... 海と星の見える丘公園から穏やかな宮津湾を望む。里波見には波見川という小さな川が流れており春3月から5月にかけて、シロウオがたくさんとれたそうだ。地元ではこれをイサザと呼んだ。この地のイサザ漁は夜間、川の流れをせいてその両サイドに設置した金網のカゴで受けるというやり方で、一日に何斗も上がったもんですわと今川さんはいう。姫路から活かしで買いにきた。ワタシらももちろん食べたが、味もなにもない、そないおいしいいうようなもんやなかったけどなあと笑う。10年ぐらい前までは、遡上の季節になると川の両岸の色が変わるほどの大群がやってきたものだったというが、近年はすっかり減った

「タイは売らなならんでねえ。その代わりにしたんやろと思うわ。嫁取りなんかでね、結納おさめに行くでしょ。そのとき酒の樽にこれをぶら下げていっとったなあ」えべっさんやお稲荷さんへのお供えにも使われるこれは、たいへん縁起のいい魚だという言葉に、四国の三本松で聞いた話を思い出した。あちらではホウボウによく似たカナガシラを赤ちゃんのお食い初めに使うのだとのことでしたよ、と今川さんに伝えると、へえ、なんて感心したりして。ここでもカナガシラはよくとれるが、ホオボオとは別物、これを祝いに使うことはないという。呼び名はバチ。「先が太うて握りが細い」その体型から太鼓のバチになぞらえた名だそう。なるほど、あのかちかちに固いアタマなら、いい音が出そうですね。

縁起のよい赤に対して、里波見で喜ばれなかったのは黒。その代表がクロダイだ。里波見にはもともとチヌという呼び名はなく、和名通りのクロダイと呼ぶのがまあ普通だそうだが、クソクイとの蔑称もあるという。糞尿にたかる。食べられたものじゃない。メジナもいけない。ツカヤと呼ぶこの魚は腹腔まで黒い。腹黒い。いまでこそ、そこそこの値が付くが、昔はとても売り物にならなかった。

チヌにグレ。われら釣り師のスター釣魚もさんざんである。「ツカヤは台風の後、小型定置に何千も入ることがあるなあ。こんなもんがどこから回ってくるんだと思うほどだ。それも35なら35(cm)、40なら40と物差しで測ったような魚がそろっとるで」おお。浮きグレ。この次そういう群れが入ったら、ぜひぜひお知らせ下さいね。

このページの先頭へ戻る

  1. 関西の釣り情報は「釣りサン」に決まり!釣りサンデー
  2. 魚偏探偵
  3. 里波見【京都府】