三尾 【和歌山県】
取材・文:森下真一
大三尾漁港のすぐ西に浮かぶ弁天島。高さ約30mの頂上付近に弁財天がまつられているこの島は地図では蜑取島(あまとりじま)と書かれる。毎年春になるとウミネコが飛来し卵をかえす。紀伊半島に3カ所しかないウミネコの繁殖地として県指定文化財になっているのだそう。港の前の御坊南海バスの停留所は「海猫島のりば」となっていた
その土地で代々受け継がれてきた魚の呼び名には、それぞれ由来があったはずだが、それがどういうものだったか、いまはもう分からないものが多い。オヌクにボケタ、ウグ。メンメイタチにクロゴッチョ。語感からして、あまり上等な魚ではなさそうだと想像できるが、さて、これらの名を持つのはなんでしょう…って分かるわけないわなあ。三尾の漁家に生まれ中学卒業以来ずっと船に乗ってきた、三尾を離れたことがないという松永さん自身、その名がどういう意味なのかさっぱり分からないというのだから。
正解は順にイラ、ホシササノハベラ、ゴンズイ。そしてクモハゼにクロソイもしくはムラソイである。「どれも値ぇはつかん」つまり漁の対象にはならない雑魚。かろうじて食用になるのが「炊きたてのぬくぬくなら食べられる」ボケタと「身ぃはしっかりしとるけどもひとつ味のない」クロゴッチョだそう。ボケタ以外のベラ類はどれも単にベロでひとまとめ。キュウセンだけはムギワラベロというそうだが雌雄の呼び分けはない。
「ウグは人間は食わんけどねえ、ウミウが好きなんよ」ゴンズイは日中、暗い岩穴で群れている。ウミウはそこへ長い首を突っ込んで、これを盛んにとるという。「こればっかり食うとるな。くわえて首振って飲み込みよる。あの鳥がイワシとかくわえてるの、見たことないわ」しかし、あの強力な毒棘が喉に突き刺さったりはしないのだろうか。
少数ながら、ちゃんとその名の由来のわかる雑魚もいる。たとえばウミタナゴ。こいつを三尾ではタチドマリと呼ぶ。立ち止まりである。「あの魚は海の底でねえ、頭を下げ加減で止まって砂つついてるやろ」と明快だ。ギンポは長いのでナガッチョ。この魚は稚アユをとる地引き網によく入る。あるとき東京では上等の天ぷらネタになるとテレビで紹介しているのを見てやってみたが、うまいもんやなかったわと顔をしかめる。ダイナンウミヘビはボンサンノオビである。確かにあの長さなら十分ものの役に立ちそうだ!?
渡船は休みだが今日も沖へ行ってきたという松永さん。船の活け間にはイサギとアジが泳いでいた。三尾のイサギは1㎏を超える大物をドタと呼ぶ。マアジは豆アジをレンゴ、15cm程度のものをジャコといい20cmを超えればトツカだそうだ
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磯端の小物ではカサゴをガンガネと呼ぶ。これがカサゴ類の総称でもあって、沖の深場にいるウッカリカサゴや黄色の模様が派手なアヤメカサゴもみなガンガネ。イズカサゴとイソカサゴは住む場所も大きさもまるで違うがどちらもチョウチンガンガネなのだそうだ。
メバルは標準和名通りのメバル。かつては三尾近辺にもたくさんいたが、アラメやカジメなどの藻場が少なくなって魚影も減った。漁師はこれを釣るのにアオイガミ(ブダイの雄)のウロコを使って独特の擬似餌を作ったものだったという。春、三尾近海にメバルガニと呼んだ小型のカニが大量にわいた。ツメの半分ぐらいの半透明のカニで、これが大群で海面を渡ると多くの魚が勇み立った。一枚一枚が大きくて丈夫なイガミのウロコに切れ目を入れると、このカニそっくりになったという。船の両舷に竿を突きだし、ゆっくり漕ぎつつ左右に揺すってやるとメバルが飛びついてきた。
イシダイはハス。手のひらほどの小物をスネコブチ。コブチは首打(こぶち)。潜ると盛んにすねをつつきにくるからとこれは由来の分かる例。イシガキダイはモンバスだ。メジナはおなじみグレで木っ葉クラスはナミグレ、イスズミはイギスイ。ニザダイがキンパ、タカノハダイはションベンタレだがユウダチタカノハはなぜかスズメなのだそう。エブタと呼ぶアカエイは一畳ほどの大物もいる。初夏の交尾の時期は要注意。潜水中の漁師が背後からのしかかられたことがあるという。キャー怖い。笑い事じゃありませんね。
(2006年7月7日取材)
| オヌク | イラ |
| ボケタ | ホシササノハベラ |
| メンメイタチ | クモハゼ |
| クロゴッチョ | クロソイ |
| ムギワラベロ | キュウセン |
| タチドマリ | ウミタナゴ |
| ボンサンノオビ | ダイナンウミヘビ |
| ガンガネ | カサゴ |
| ハス | イシダイ |
| イギスイ | イスズミ |
| キンパ | ニザダイ |
| ションベンタレ | タカノハダイ |





