小浜 【福井県】
取材・文:森下真一
証言者 浜詰章さん昭和17年生まれ。小浜旧港を基地とする釣り船「浜丸」船頭。25歳から遊漁船業をはじめた。もとは仕立て専門でキス、アジ、イカなどを釣らせていたが現在は乗合船がメイン。
マイカ呼ぶ夏の漁り火 名産アマガレにグジ タイならレンコが最高
「小浜(おばま)には白いうのんはないんや。赤ばっかり。まあ赤ていうのんも、あとからいいだしたんやけどね」
イカである。どうもイカはややこしい。平成16年度統計によれば、生鮮、加工品を合わせた日本のイカ類消費量は、全魚介類中トップの68万トンだったそう。かつて世界の総漁獲量の半分を食っているといわれた日本人のイカ好きはいまも変わらない。それほど好んで食べる超メジャーな海産物なのに、その呼び名が地方ごとにまるでバラバラだというのは不思議な話だが、裏を返せばそれは、イカが昔から地元で消費されてきたことのあかしかもしれない。
日本中でとれる。日本中の漁師がとる。地元の港に揚がったイカを地元の人たちが食べる際、地元で通用する呼び名があればそれでいい。ケンサキイカをスルメイカと呼びヤリイカをケンサキといい、スルメイカはマツイカと呼ぶという先月の宇和島みたいに。
ここは若狭の中心、福井県小浜。いまは赤=アカイカと呼ぶことも多いこの地のケンサキイカは、もとは真=マイカというのがふつうだったのだと語るのは浜詰章さん。そのイカを釣らせる乗合船浜丸の船頭である。
日本海のケンサキイカの呼び名は、シロイカ・アカイカ・マイカの三通り。これはぼくら釣り人にもおなじみの、白くもあり赤くもあり、そして「真」の字を冠するにふさわしい、おいしいイカである。シロイカと呼ぶ例は京都府以西、山陰地方の港に多く、特に鳥取・島根あたりでいうシロイカはブドウイカを指す。やや胴が短くてずんぐりしたイメージのブドウイカはケンサキイカの季節型(地方的亜種)とされる。
マイカの釣り場は小浜沖8マイル。若狭のイカ釣りは夜釣りだ。集魚灯はひとつ2キロワット。浜丸には合計27キロワットのライトを搭載しているそう
いまは年間を通してイカ釣りをメインに船を出している浜丸だが、それはお客の要望によるものだという。キスやアジやタイを釣りにやってくるお客はめっきり減った。イカ釣りだけは昔と変わらず多い。おだやかな夏の夜、小浜沖には漁り火が、あかあかとともる。
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若狭ガレイに若狭グジは当地の二大名産だ。寒風でさっと干し上げる若狭ガレイの初期の材料はヤナギムシガレイ。これを小浜ではアマガレといい、その漁期が終わるとエテと呼ぶソウハチになるという。カレイの類はこれらのほか、アカガレイをアカガレ、メイタガレイをメイタガレ、ババガレイをバガレというふうに、最後の「イ」を省略して発音する。ぼくらの釣りのターゲット、マコガレイやマガレイ、イシガレイについては「ああ、そんなんもおるなあ」とひどく冷淡で、「カレー」と今度は語尾をのばしてひとまとめなのだそうだ。
グジというのはご存じアカアマダイ。一塩ものをウロコを落とさずそのまま焼くのが若狭焼き。グジの身の甘さを堪能できる食べ方だそう。ちょうどこれからが旬。みそ漬けもええけどやっぱり塩ふって焼くのが一番や、そらうまいでという浜詰さんだったが、実は、浜詰さんら地元の人が食べているのはションベングジなのだそう。底びき網に入る30cm足らずの小型グジをそう呼ぶ。延縄や一本釣りで漁獲された大物は1尾が2000円もする。「もったいのうて食えんねて」というわけで網に混獲された安い小物を食べる。それにしてもグジはグジ。ションベン…って。もう少し上等な呼び名をつけてやってもよさそうなもんですがね。
JR小浜駅を背にまっすぐ海に向かったところに小浜旧港がある。夕方の出船時刻を待つ港はひっそりとしていた
塩焼きでおいしい魚といえばレンコと呼ぶキダイ。これはタイのなかでも一番うまいと浜詰さんはいう。単にタイといえばマダイを指すがこれがいいのは秋。いまの時期は食えたもんやないで、とボロクソだ。桜の時分は腹がボテボテで身は水っぽい、いまの麦わらダイはスカスカだ。刺身にするならアジの方がよっぽどええ。そのマダイの子を紀州ではチャリコと呼ぶが、ここ小浜ではチャリコというのはタイ科のもう一種の魚、チダイの呼び名なのだそう。
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いまはチヌということも多い黒いタイは、小浜では標準和名通りのクロダイがふつうの呼び名だった。小物はチンタ。キチヌやへダイは見かけない。メバルはメバチ、その体色により金と黒に呼び分けた。どちらかといえばキンメバチの方が上等とされるが数は少ない。メバチとはメバルやカサゴ、ソイの総称でもある。似たような姿の魚はみんなメバチの類になる。




